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    傷だらけの男達

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      『車内で不審なものがございましたら駅員にお知らせくださいませぇ』

      よく電車で聞かれる車内放送である。

      いつもなら、聞き流すだけのこの放送。

      本来なら、この夕日で真っ赤に染まる人の少ない車内の色合いなどを柄にもなく堪能しているところなのだが、今日はそういうわけにもいかず僕は迷っていた。

      なにしろこの車両には僕ともうひとりしか乗車している者はおらず、なぜかそのもうひとりはこのガラガラの車内の中で立っていて、なにより、そう、





      羽が生えていた。





      それを除けば40台も後半の脂もノリノリでテカテカなスーツ姿の至極一般的なサラリーマンである。

      なんだコレは。

      しばらく悩みながら眺めていると夕日を眺めたその瞳から涙がこぼれる。

      泣いている。

      いい年の大人が羽を生やしたあげく泣いている。

      僕が困惑しながら凝視していたその時、不意にこちらを向いた羽付きサラリーマンと目があった。

      シマッタ。

      あわてて視線をそらす。と同時に羽ばたいたのかワサッという音とともに頬に風があたる。

      見たい。が、今は見てはいけないと本能が絶叫をあげる。

      しかし、そんな本能的なアラームも虚しく真下を向いた僕の視界の中に革靴が入っていた。

      顔をあげるともう涙はぬぐったのか涙こそ流してはいないが陰鬱そうな表情を無理矢理笑顔でつくろっているおっさんと再び目があった。

      どうする。どうしたらいい?

      数秒の間。どうして良いかわからず黙ってただ見つめ合っていると、羽付きサラリーマンは口を開いた。

      「おじさんなぁ…実は、天使なんだ。」

      「……はぁ」

      思わずだった。思わず気のない返事をしてしまった。

      おっさんはズドーンという音と共に両膝を落とし号泣した。

      「そうだよね!フツーそんなこと急に言われたら困るよね。疑うよね。生まれてごめんね!飛ぶよ、窓開けて飛ぶよ!落ちるけどね!」

      「いやいやいやいや!落ち着いて!信じる!信じるから落ち着いて!」

      「なんだよ!本当は単に目の前でいきなり死なれたら困るからとりあえず言ってるだけだろう!?」

      「そんなフシもあるけどまあ落ち着けよ!」

      「なんて正直な方なんだ!その心意気に免じて死んでやる!」

      「落ちつけって言ってるだろーーー!!」

      ボゴーン

      は!ついエキサイトして殴ってしまった。天使っぽいのを。

      「す、すいません!つい!」

      「いいんですよ…私、本当は叱って欲しかったの」

      今度は乙女の瞳で上目遣いをするおっさんに全身の毛穴が開く、

      ガスッ

      「あ。」

      のとほぼ同時にほとんど条件反射で蹴っていた。

      「冗談じゃないですか。気が短いひとはやだなぁ…」

      なにをふてくされているんだこのひとは。

      「まあ、なにがあったかおにーさんに言ってみなさいよ。」

      そう言ってみると、ちょっとした間が空き下唇を出して「ぅっ」と小さい声をもらすおっさん。

      「実は…息子にクリスマスプレゼントでたまごっちをせがまれてね。今時もなくって、散々探してやっと見つけたのがコレだったんですよ…」

      そう言って彼がポケットから出したのは…

      「ギャオッピか…」

      「はぃぃ、似てるからいいだろうって息子に渡したら、叩き返されて、「ちげーよ」って、「死ね!」って…ぅぅぅ」

      「そうかぁ、それは辛かったねぇ。息子さんは何歳だい。」

      「24」

      「そ、そうかぁ、それは辛かったねぇ…」

      「えぐ…そうなん…えぐ…だから、もう死んでやるっ!って…えぐ、天国から飛び降りたんですけどぉ…えぐ」

      「ついつい羽ばたいちゃったんだ」

      「うん、飛んじゃって…ひっぐひっぐ」

      「んで山手線乗っちゃったんだ」

      「ぅぅ…もう駒込駅通過するの四周目なんです」

      「でもなぁ、おっさん」

      「?」

      「僕は、今日彼女にふられたよ…」

      「そんな中、こんな傷だらけのエンジェルに捕まったんだね」

      「それはこの際どうでもいいんだけど、ふられた理由がさ…」

      「うん」

      「ハゲ、バレちゃってさ…」

      そういって僕は22万のカツラをするりと外してみせた。

      「・・・」

      「分割ローンで12回払い終わったばっかりなのにさ…」

      長い沈黙。

      「失礼ですが、おいくつですか」

      「23です」

      「・・・・・」

      「・・・・・」

      沈黙のまま立ち上がったおっさんはその背中の羽を見せつけるように僕に背を向け、

      「ええい!」

      自身も被っていたカツラを床に叩きつけた。瞬間隣の車両から通過しようと入って来て帰っていった人がいたが見てないフリ。

      「あ、あんた…」

      「ふ、お互い…キてますな」

      ビックスマイルである。僕らは固く固く握手を交わし。数秒の時が流れると車内アナウンスが流れた。

      『まもなくー西日暮里ー西日暮里ー』

      名も知らぬ天使が固く握った手を緩める。

      「ふふ、貴方のおかげで、なんだか、生きる希望が湧いてきた気がしますよ」

      「それは良かった」

      「帰ったら。息子にガツーンと言ってやりますよ」

      「ほほう。なんて?」

      「ギャオッピで許してください、ってね!」

      そう言って爽やかな表情で外を眺める天使はどこかひと皮剥けた様な風格があった。実際頭皮はある意味ひと皮剥けたがまあそれはこの際どうでもいいいことである。

      「あ」

      そう言って彼の手からギャオッピが落ちる。

      『西日暮里ー西日暮里ー』

      拾い上げて渡そうと顔をあげると、すでにそこにはおっさんの姿はなく、外から肌寒い空気と見知らぬ人々が流れ込んでいた。

      慌てて外を見ても天使の姿はなく。視線を車内に戻して僕は途方に暮れた。

      右手にギャオッピ、左手にカツラ、心にピストル、足下に羽というか翼そのもの。

      途方に暮れたのは僕だけではなく、西日暮里から乗り込んだ人達も同様で、ただ車内には途方に暮れた空気で埋め尽くされ、僕は、とりあえずカツラを被りなおした。

      The End

      天寺英太郎 * 短編テキスト * 05:38 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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