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    優しくなりたい

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      「貴女はひどい人だマドモアゼル!」

      なんてことーーーーーーー!!!!!

      わたくしはひどくショックをうけた。まさか親愛なるムッシュに罵られるなんて思いもよらぬこと!
      そんなわけで私は裸足になって泣きながらムッシュの前から逃げたのであった。

      「マダーーーム!」

      勢いよくマダムの部屋のドアを叩き空けるとそこにはマダムがドアの開けっぷりに負けないくらい鼻血を噴いて倒れていた。

      「キャー!マダム!どうなさいましたの!?セバスチャン!セバスチャン!マダムが大変ですわ!」
      「おまちなさい、マドモアゼル」

      呼ばれて振り向いてみたならば、まるでテーヌ川の流れのごとく優雅に鼻血を流したマダムが蒼白の面持ちにで仁王立ちなさっていた。

      「まあ!マダム!そんなに青くなられて!」

      「ふふふ、セバスチャンなんて呼ばなくても大丈夫よマドモアゼル。齢68年、16、7の小娘にドアを叩きつけられたぐらいなんてことなくてよ、救急車を呼んで」

      「大事だかなんだかわかりませんわ、マダム」

      「ふふ、冗談よマドモアゼル。それよりどうしたのかしら?」

      そう言い、さながらマリーアントワネットのカールの様にしてティッシュを鼻にねじ込む姿もまた高貴なマダム。恐ろしい方!

      「わたくし・・・わたくし、ムッシュに酷いと罵られましたの!」

      「まあ、いったいムッシュにいったい何をなさったの?」

      問われ、わたくしはあさましい過去を振り返り天を仰ぐ。

      「あれは小鳥達も歌う小春日和の午後でしたわ。」

      「要するについさっきですのね」

      「わたくし、ムッシュといつもの様に温泉ピンポンをたしなんでおりましたの」

      「多摩温泉ランドに行きましたのね」

      「そこでムッシュがなにか召し上がりたいとおっしゃったので、わたくし、危険を察知して持参したポテロングをラッパ食いいたしましたの」

      「まあ、ムッシュに分けて差し上げませんでしたの?」

      「私のですもの!」

      わたくしが泣き崩れるとマダムは容赦ない言葉を投げかけた。

      「マドモアゼル、貴女には優しさが足りませんわ」

      なんですってーーーーーーー!

      わたくし、齢16年。サバを読んで22年生きてきた生涯で初めて投げかけられた言葉でございました。優しさが足りない、優しさが足りない、優しさが足りない!

      「わたくし優しくなりたいですわ!マダーーム!」

      「ナイアガラも真っ青な泣きっぷりですのねマドモアゼル!良くってよ、わたくしは厳しくてよ!」

      こうして、優しくなるためのお稽古がはじまったのであった。

      後編に続く。




      −−−後編。(もともと二本立てだったのです)

      ひょんなことからはじめることになった優しくなるためのお稽古。

      そのご指導をなさるマダムは容赦なく厳しいお方。それでもわたくし、ムッシュに一矢報いるために、ひととして敬愛される優しさを持つために負けませんわ!

      そんなわけで突然の事ながらわたくしは命の危機に瀕しております。

      「マドモアゼル!もう根を上げるつもりですの!?」

      「まだまだですわ!ばっちこーい!」

      「さっきから芋虫のようにシリ以外地面についていない場所のない体勢のままよく言いましたわ!それでは千本ノック600本から700本目スタートですわ!600!601!602!603!!!」

      正確無比極まりない極上のノックボールがピクリとも動くことのかなわないわたくしの脳天に五連打したところでわたくし、意識が完璧にお花畑にぶっとんでおりましたわ…

      「起きなさいマドモアゼル!」

      「ギャー」

      「ギャーとはなんですの、はしたない!」

      「でもマダム!普通起こすときはせいぜいバケツの水とかですわ!決してパワーシャベルで埋めるのとは違うと思いますの!むしろゴートゥーへブンイレブンいい気分ですの」

      「それだけ言えたら上等ですわ、立ちなさいマドモアゼル。肩慣らしはもう終わりですことよ」

      「!?今までの血の滲む様なお稽古は肩慣らしだったと言いますの!?」

      「当たり前ですわ!何を甘ったれたことをおっしゃっておりますの!千本ノックなんて序の口もいいところですわ!むしろあってもなくてもどうでもいいようなものでしてよ!」

      「じゃあなんでしましたの!?」

      「雰囲気よ!」


      恐ろしい人ーーーーーーー!


      わたくし、本当に恐ろしい方にご指導願ってしまった気がいたしますの。
      でも、わたくし負けない!だって、だってわたくし、優しくなるんですもの!

      「次120キロフルマラソンですわ」

      「待ってマダム!フルマラソンは42.195キロですわ!」

      「あらそうですの?わたくし運動のことはとんと疎くて」

      「だいたいなんのためにそんなことをしなければなりませんの?優しさにフルマラソンがなぜ必要ですの?」

      「…ばかー!」

      「ぁっ!」

      頬に熱い平手が刻み込まれる。あまりのことにわたくし思わず腰を抜かしてしまいましたの。

      「なにをなさいますのマダム」

      「…えーと」


      えーと!?


      「あれですわ、強靱な心、すなわち何事にも寛容でいられる心を得るためには、まず強靱な器、すなわち強い肉体を必要とするものですわ!おわかりになられて?」
      そ、そんな深い思惑があっただなんて、わたくし浅はかでしたわ、やはりこの方は凄い方ですのね…でもなにかしら、このとってつけたようなマダムの目の泳ぎ様は。

      「わかりましたわ、でもマダム、その前にその言葉にウソ偽りがないかわたくしの目をよく見ていただきたいの…」

      「………」

      「………」

      「マダム、なぜ目をそらしますの?」

      「………」

      「マダム?」

      「……………ばかーーー!」

      「ぁっ!」

      一度ならず二度にわたりわたくしの頬に熱い平手が刻み込まれました。これは…

      「これはいったいどういうことですの!?」

      「飴と鞭ですわ!」

      なんという発想の転換!わたくしごとき凡庸な者には及びもしなかった答え!

      「あ、飴は?飴はいただけませんの?」

      「わたくしが舐めてますわ」

      なんてことーーーーーーーーーー!

      大きい。このお方、大きすぎますわ…

      「マドモアゼル…」

      格の違いを見せつけられたわたくしの肩にそっと優しく触れるマダム。

      「はい…マダム…」

      顔をあげるとそこにはまるで100カラットのダイヤを燃やして消し炭にしたような優しい瞳で私を見下ろすマダムの顔がありました。

      「よくここまでがんばってついてきましたわね、わたくし正直感動していますわ。」

      「でもマダム。わたくし、まだやってもやらなくてもいい千本ノックを受けて二度ビンタを張られただけですわ」

      「それだけやればわたくしも満足しましたわ。いい加減優しくなるためのお稽古をいたしましょう」

      「いままでのは何でしたの!?」

      「ここにサンショウウオがいますわ」

      この方さっぱり聞いてませんわ!とにかくそうおっしゃいながらマダムはどこからともなく子サンショウウオを抱き上げてわたくしに見せてくださった。

      「このサンショウウオを…」

      何か言いかけた矢先、マダムの指を子サンショウウオがおかきになられてマダムがお黙りになる。

      「………」

      そして無言のままどぶ川に子サンショウウオを放り投げるマダム!なんてことーーーー!
      わたくし、無類の両生類キチガイでして、サンショウウオがヌーと鳴けばいても立ってもいられずサンショウウオの舞とサンショウウオの歌をそのつど自作自演するほどのもの。
      その両生類好きのわたくしの目の前で両生類が投げ捨てられた、もうそうなったらわたくしの体は勝手にサンショウウオを追ってどぶ川にダイブするに決まってますわ!

      案の定わたくし、気が付けば何も考えないままに川に飛び込み子サンショウウオを抱き上げていましたわ。上の道路では涼しいげな顔でこちらを見ているマダム。わたくしは夢中で叫んでいた。

      「マダム!貴女は酷い方!こんな可愛い、こんなにも無抵抗なサンショウウオになぜこんなことが出来ますの!?なぜそんな顔で眺めていられますの!?貴女に、貴女に教わる優しさなんてありませんわ!」

      しかしマダムの表情は曇るどころか返って笑顔に変わる。いったいなにが愉快だといいますの?

      「そう。わたくしが教える優しさなんてありませんわ。今貴女はすでに優しさの中にいますのよ」

      こ、これが優しさ?ああ、なんてドブ臭い!

      「臭いの話しではありませんわ」

      「エスパー!?」

      「どこのサンショウウオだかもわからないような、そんな両生類をとっさに命がけで助けてしまうような、そんな無意識な中に優しさというのもはあって、決して意識して出すものでも「コレ」といって定義付けるものでもない。
      ただ、貴女の救ったその命への優しさ。それだけは目に見える真実。貴女は優しい人ですね。マドモアゼル。ごめんなさいね。色々とつらくあたって…」

      「マダム…」

      わたくし、涙がとまりませんでしたの。


      翌朝。

      「セバスチャン!セバスチャン!」

      「どうなさいましたマドモアゼル」

      「昨日マダムにいただいたランスロッドがいませんの。ご存じなさいません?」

      「はて、ランスロッド…?」

      「サンショウウオの」

      「ああ、ああ、アレなら今朝奥方様がドブ川に流しておりましたが」

      ………

      「ムーーーッシュ!マダムが、マダムが酷い方ですの!」

      ホームランでも打ったかのような手応えを感じながら扉を叩き開けるとそこにはムッシュがそそり立つエッフェル塔の様に壁に刺さっていた。


      大変ですわーーーーーー!


      次回。ムッシュ横犬神家殺人事件。犯人はわたくし。お楽しみにね☆(嘘)

      THE END

      天寺英太郎 * 短編テキスト * 05:30 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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