<< August 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 殿と黒装束10 ゴザル危うしの編 | main | 現代劇 桃太郎改 >>

スポンサーサイト

0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    スポンサードリンク * - * * - * - * - -

    馬が現れた。

    0

      「どうも馬です」

       馬だった。

       私は困惑していた。インターホンが鳴ってろくに外も確認せずに開けた扉の先にいたのは見まごうことなく馬。しかもスーツで二足歩行であった。

      「あ、びっくりしました?ごめんなさいね。馬で」

      眉を潜めるような仕草でおっしゃる通り、私はビックリして口をパクパクさせたまま立ちつくしていた。

      「ああ〜…えーと、今時間大丈夫でした?」

      「あ、はい。大丈夫?ですけど」

      「それはよかったー。いやー不躾で悪いんですけど中入れて貰っちゃっていいですかねぇ。見られると騒ぎになっちゃうんで」

       確かに。玄関口で馬が立っていたらそりゃ近所も騒ぎ出すだろう。などとあまりのことに頭の回転が追いつかなかった私はついつい馬を室内に入れてしまったのがはじまりだった。

      「部屋キレイにしてるねぇ。女子大生?」

      「ええ、まあ」

       馬にしては小柄といってもまあ人間と対象すれば相当な大柄なわけだが、そんな馬は座布団に尻から座り足を伸ばしてリビングに座っていた。なんなんだこの光景は。

      「あ、このガム貰っていいですか?好きなんだよねブルーベリー」

      「はあ、どうぞ」

      「ああ、そんなに緊張しないでリラックスして」

       まるで我が家の様な見事なくつろぎっぷりである。馬というのはデリケートな生き物と聞いていたが、まあ、そもそも二足歩行で歩いたりしゃべったり蹄で器用に銀紙をはいでガムを噛んだりするというのも聞いたことはないがとにかく堂々たるたたずまいである。

       そして、テレビも勝手に見始めたわけだがこのままではあまりに発展性がなさ過ぎる。何か状況を打破しなければ。

      「あの…」

      「ぶはははは!いやー僕ダウンタウンもの凄い好きなんですわ!あ、すいません。何か見たい番組ありましたか?」

      「あ、いえ、私も好きなんで」

      「よかったじゃあ一緒に見ましょう」

      「え、あの、はい」

       結局まるまるごっつええ感じを始終笑ったりつっこんだり軽く論議したり馬としてからほのぼのとお茶をひとりと一頭で啜っていた。

       ってちがーーーう!何をこんなにこってり落ち着いてるんだ私は!聞かなければならないことは山ほどあるだろう。

      「あ、そういえば馬さん」

       と呼びかけると驚いた様にこちらに顔を向けぺこりと会釈する。

      「あー、すいませんすいません。馬さんて。まだ名乗ってもいませんでしたね!」

       や、別にそこは特に気にしてなかったのだが。

      「ああ、はい、そういえばこちらもまだでしたね。私は花井織恵って言います」

      「僕オグリキャップって言います」

       オグ…

      「えええ!?」

      「ウソです」

       馬に馬鹿にされた。馬だけに。

      「いい反応ですよ。だいたいオグリさん芦毛だし。僕、栗毛だし。ぶははは」

      「ですよねー。あははは」

       名前以外馬のことなど知るか。それより私にはしなければならないことがあるんだ。思いきって言お
      うとした矢先、めったに鳴らない部屋電話が鳴った。まあ、部屋電話が鳴るときなんて相手は決まっているのだが間が悪い。

      『おう、織恵。元気か』

       案の定、父である。

      「元気よ。どうしたの」

      『今朝も電話してたんだけどつながらなかったから心配したぞ』

      「朝は学校だよ。それよりなに、今、人…?来てるんだけど」

       横目で目が合ってしまった。

      『なんだお前、こんな時間に。男か』

      「…さぁ…あ、いや、違うよ」

      「一応雄ですが」

       それも別に知りたい情報じゃない。というか電話の話が聞こえるのかさすが動物。

      『なんだ、なんだ怪しいなぁ。お父さんはどこの馬の骨ともつかない男は許さないぞ』

       骨どころか肉までキッチリついてますが。と、言いかけて言葉を飲み込む。

      「だから違うってば」

      「骨ではないですね」

       そうですね。

      『別に用はないんだ。最近ニュースで不審者が多いって言ってるからお前も気を付けるんだぞ』

      「ええ話やなぁ…」

       馬泣いてるし、関西弁だし。 不審者?をあげてしまっているし。

      「とにかく、大丈夫よ。心配しないで」

      『男が出来たらちゃんと紹介するんだぞ』

      「はいはい。わかりましたよ。またね」

       受話器を置いてため息ひとつ。

      「いいお父様ですね」

      「どこにでもいる普通の人だよ」

      「僕、実は父を見たことがないんです…」

       何か急にしんみりした話になってしまった。

      「あの、ごめ…」

      「毎年弟妹はごまんと出来るんですけどね。あ、アグネスタキオンって知ってます」

      「知らないよ」

       わりと馬の世界ではよくある話の様だった。

      「ああ、競馬に興味ない。失礼しました」

      「あのー、競走馬なんですか」

       はじめてこちらから質問したものの当初の質問するべき項目からかなりはずれた。まあジャブは大事だろう。

      「まー。そのつもりで種付けはしたんだと思いますけどね、あ!女性の前で種付けなんてぶはははは、これはこれは失礼ぶははは!」

       笑うポイントも意味もよくわからない!

      「そんなことより今日は遅いので泊まってもいいですグー」

      「よくないですってもう寝てるー!」

       幸いベットは空いたままだったが、その夜おそるおそる私は寝るに寝られず寝返りを幾度かうったが結局気が付けば眠りに落ちていた。

       目が覚めると馬はいなかった。よもや夢だったのではないや夢に違いない。夢ならばそれはそれで楽しい夢だった、と期待したその時、玄関がズガンと開いた。そして馬が立っていた。

       早く覚めて。。

      「おはようございます!いやぁ、朝は走らないと調子でなくってね!」

       しかも昨日よりテンション上がってる。なんてこった。

      「シャワー借りますね!」

      「…どうぞ」

      「あ!」

      「なに?」

      「覗かないでくださいね」

       この馬野郎。そして室内に響くシャワーの音。ああ、私は何をしてるんだろう。そして朝食は野菜サラダでいいんだろうか。

      「あの、なんでウチに居座ってるんですか」

       やっとだった。一晩かけて野菜サラダに顔からつっこんだ隙にやっとこの疑問をぶつけることが出来た。レタスをくわえたまま、あきらかにしまった。という顔になる馬。

      「色々と話せば長い事情がありまして…」

      「今日、二限からなのであと一時間近く余裕があるのでどうぞ」

       質問を濁そうとする馬に釘を差すモシャモシャとサラダを食べながらしばらく沈黙する。
      私は今度は怯まずじっと見つめる。そして馬はサラダをグッと飲み下し、そっと目を背ける。

      「…なんとなく」

       小さい声で言った。とんでもないことを今言った。

      「なに?もう一回。なんて言った」

      「……なんとなく」

      「ほーう、じゃあ馬。キミはなんだね。なんとなくふらりと私の家のチャイムを鳴らし、なんとなくテレビを見て、なんとなく勝手に寝て、なんとなくシャワーを浴びて、なんとなく今朝食を食べているわけかね」

      「うん」

       うんじゃねえ。

      「なんで?なんで私の家なの?どうしてなの?」

       馬は答えない、しかし答えはつけっぱなしにしていたテレビのワイドショーから返ってきた。

      『千葉県某市におきまして、馬が来たという通報が相次ぎ、警察側は…』

      「何軒か回ったけど断られたのね」

       さめざめと泣きながらこくこくと頷きモシャモシャサラダを食う馬。この畜生め。

      「とにかく、ひとり暮らしの女子大生に馬を飼うような財力はありません。出てってください」

       今度はどぱーと泣きながらモシャモシャサラダを食う馬。な、泣いたってダメなんだから!強い目で睨んでやると、馬は野菜サラダをしっかり食ってから陰鬱とした表情で立ち上がりトボトボと玄関に向かった矢先のことだった。

      「あ!痛い痛い痛い!」

       馬がいきなり右足を抱えて座り込んでしまった。

      「なに、なにどうしたの?」

      「ソエ、ソエが、略さないと管骨骨膜炎もしくは第三中手骨膜炎が凄く痛い!」

       わかりやすいように色々言っているもの事態がさっぱりわからない!

      「とにかく足が痛いのね?」

      「おおよそそういうことです!あいたたた」

       ああああ、もう!

      「わかった、わかったから。私講義始まるから行くけど足が痛くなくなるまでいていいから、でも治ったら出てってよね」

       言ったとたん目がそりゃあもうキラキラし、と同時に悪寒が走る。女の勘が言わなきゃ良かったと泣き叫んでいるような気がした。


       本日の最終コマ。3限の刑法が終わりため息をひとつふたつみっつ。

      「どうしたー織恵。さては男の悩みか。白馬の王子でもまたおっかけているのか?」

       後から声をかけてきたのは万年頭の中が春の悪友、香奈子だった。それにしても白馬の王子ネタは中学生のときに語った話である。当時ですら爆笑をとったのだから今のキャンパスライフまっただ中でそのなじりはやめていただきたい。

      「そうならまだいいんだけどねぇ」

      「なーに、どうしたの。麗しの織恵ちゃん」

       とよくわからないが手を差し出される。どこの三枚目王子様だろう。

      「今日のさぁ、刑法の今坂が言ってることが全然わかんなくって。どーしよ。必修なのに」

      「なるほど、なにどこがわからなかったの?未失の故意とか?」

      「ああ、そのへんもわかんないねぇ」

      「なになに、どのへん。図書館でおねーさんが説明しちゃうぞ。セクシー先生の個人授業だぞ」
       無闇な投げキッス。行き交う人々の視線が痛い。

      「いやぁ、なんていうか。どこがわかんないかよくわかんなくなっちゃってさぁ」

      「なんだぁ、高校生の数学みたいなこと言い出して、もう留年する気まんまんかね、この負け犬くん」

      「まだ、まだ負けてない!」

      「犬じゃない!」

       確かに馬だけれども。

       あれ?

       そう私の隣には馬が立っていた。不動たる二足で。そしてスーツで。一方、香奈子は目を白黒させて小さな声で「馬、馬?」と呟いている。やばい、ここここれはどう乗り切ったらいいものか。

      「ち、違うの。違うんだって」

       何も考えてなかったが咄嗟に出たひと言はそんなんだった。そりゃ浮気がバレた男も咄嗟に使うわと悠長なことを自分で思う。

      「なに?なにが違うの?」

       なんだろう。

       どうするどうする、どうしたらいい?私の頭は爆発寸前で、気づいたら馬にまたがり声高らかに宣言していた。

      「わ、私が白馬の王子よ!」

       なんだ、私はなにをやっているんだ。そんな私を愕然とした表情で見上げた香奈子は叫んだ。

      「は、白馬じゃなーい!」

       つっこみどころはそこかよと思ったのはそのさらに十数秒後のことだった。

      続く…のかな?

      天寺英太郎 * 短編テキスト * 04:04 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

      スポンサーサイト

      0
        スポンサードリンク * - * 04:04 * - * - * - -

        コメント

        コメントする









        トラックバック

        このページの先頭へ